
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、
きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び
立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。 <序文より抜粋>
「スティルライフ」は詩人でもある池澤夏樹が87年芥川賞を受賞した代表作です。
余分なものをそぎ落とした清清しい文章とそれによって描かれる、美しく詩的な光景。
それは一面に降りしきる雪や煌く無数の星屑。
本書の描く世界では物理の理の中にあっても、たとえば科学反応ですら詩的な美しさを魅せます。
読者は、短い物語の中、心に残る風景とともに、自己とそれを取り巻く世界、その関りについて、
心の奥に深い余韻を残すことになるでしょう。
雪のように溶けてしまう魔法がかけられた言葉。何度でも読み返したくなります。
寒い冬の日は同時収録の「ヤーチャイカ」もすばらしい本書をそっと開いてみてください。
冬の静けさは、自分の内側にある世界の存在を際立たせます。足音や誰かの吐く息も。
寒くなりました。出歩くのが億劫な担当です。
今月は寒い季節に読んでもらいたい一冊を紹介致しました。
1月は「冬に読みたい本」の特集も予定しています。どうぞお楽しみに。